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前回は住宅より別荘の方がカビやすい理由と、建物床下についての湿気対策を説明しましたが、
今回は建物内部での問題と対策について詳しく書いていくつもりです。
□ 別荘がカビで傷み易い理由について、建物内部側の問題点
Ⅰ 密閉状態による問題
長期不在が多い別荘用途の建物は、床下などから入った湿気が、密閉された室内空間から抜けにくくなる事が、まず第一の原因となります。このような建物で一度カビが発生した場合、撒き散らされた胞子から、次のカビが発生、そのカビから・・・・というように建物内空気中にカビ胞子が充満して、更にカビ易い状況になってしまいます。
対処方法は、「機械による換気」ですが、換気種類や機材の違いなど、説明が多いため次回での説明とします。
Ⅱ 屋根・天井や二階壁部分の断熱性能不足
カビの多い古い別荘では、カビが吹き抜け上部や二階の高い位置付近に集中しているのが、観察出来るはずです。
これは建物の断熱性能が不足が原因なのですが、これからその理由を説明をしていきます。
軽井沢では、真夏の日差しの強い日中は、中には30℃を超える日もありますが、そんな日でも日没から急激に温度を下げ、最低気温では18℃位まで下がります。 (気象庁軽井沢データー参照)
このような気候が避暑に適しているとも言えるのですが、そんな一日の寒暖差が激しい場所で、断熱性に乏しい密閉された建物の、内部の温度はこのようになります・・・。
□ 建物内の温度状況
朝方は、建物内部の温度差はありませんが、日差しの強い日中は、屋根が直射日光で、高温になる程熱せられ、その熱が断熱性の乏しい吹き抜け屋根や天井表面を通して徐々に伝わることで、密閉した二階や吹き抜け上部に暑い空気がたまります。 (断熱性にもよりますが外気温を超えるて暑くなる別荘も珍しくないでしょう・・。)
尚、二階上部の空気は上側で熱せられて上に留まっているため、対流による空気循環は起こりません。 なので一階など下側の空気はさほど暖まりません・・・。
その後、日が暮れると、急速に外気温が下がり、それと共に断熱性の低い吹き抜け天井面や壁面などの、室内側の表面温度も外気温並に下がって行く訳ですが、暑く軽い空気は、まだ上部にとどまりますが、その後冷えた天井表面温度により、空気も冷やされ、対流により建物内部の温度差が無くなるように冷えて行きます。
暑い時期は、このような毎日が繰り返されるのですが、湿度が高くなり、カビが生えやすい状況になる理由は下記の通りです・・。
□ 建物内の湿度とカビの繁殖のしくみ
日中、暑い空気がたまった室内上部では温度が高くなる事で、相対湿度が低下しますが、一階の温度は、さほど変わらないため相対湿度はそのままです。
そのため、水分量が相対湿度の高い一階側から、相対湿度の低い、高温の二階側へ移動し、湿度バランスを取ろうとします。
そうなると、二階の暑い空気側は、朝方より相対湿度は下がる物の、空気中の水分量は多くなります。
そして日が暮れて、急速に外温度が下がってくると、暑い空気は軽いため、上部にとどまったままですが、断熱性の低い吹き抜け天井面や壁面などは、外気温と共に急速に表面温度が下がり、先程の暑く水分量の多い空気に触れる事で、夜の間に二階壁や天井表面で結露が生じたり、結露に至らなくても、カビの繁殖しやすい高温高湿度状態が長く続く訳です・・・。
あまり上手いとも言えないこの説明だと、自分が初めて読んだとしても正直判らないと思うので、湿り空気線図に記入した下側の(図-1)を使って、番号順になるべくわかりやすいよう、具体例を付けて説明します。
□ 建物内の湿度とカビの繁殖のしくみ (具体例)
① まず朝方の室内温度が20℃、湿度はそう高くない50%と仮定します。(図-1 ①の●)
尚、「相対湿度」でのリンク先のイラストのたとえが、わかり易そうなので引用しますが、一階にイス140席に水70人(50%の割合)、暑くなる二階上部は空間が1/7と少ないため、イス20席に水10人(50%の割合)で座っていると思ってください。
② 日中、室内上部の暑い空気の温度が36℃になったと仮定します。(図-1 ②の●)一階のイス140席に水70人(50%の割合)は変わりませんが、二階上部の温度が上がった事で20席のイスが大幅に増え50席になり、水10人(20%の割合)で座っている状態になりました。
③ 二階上部のイスが空いてきた(20%の割合)のを見た、一階のイスに座っている(50%の割合)人たちが、同じ混雑具合になる位に移動します。 (一階140席に水70人の内、水15人が空いている二階へ移動・・・。 一階140席に水55人、二階上部50席に水20人となり、どちらも混雑具合が平均化(40%の割合)されるようになりました。(図-1 ③-1の● ③-2の●)
尚、二階上部は相対湿度が、朝方50%だったのが、昼40%になったので、相対湿度で言えば少し減った事になりますが、狭い空間に水分が集まってきた状態(絶対湿度は上昇)になっています。
④ 夜になっても暑く軽い空気は、温度を保って上部にしばらく留まったままですが、直射日光の熱が伝わり熱くなっていた壁や天井の表面温度は外気温と一緒に急速に冷やされ、それと共に壁や天井の周囲の空気が冷やされて、相対湿度が上昇してきます。(二階上部の50席に20人座っていたイスが少しずつ減ってきている状態)
尚、壁や天井の温度が(図-1 ④の●)の位置(20℃)まで低下すると、結露が始まります。
50席あったイスが、最初の温度と同じに下がる事で最初と同じく20席に戻ります。 ですが、座っていた水は昼間の水分移動で、水10人から水20人へと増えてしまっているので、席は満席状態です。
ちなみに、20℃以下になると更に席が減ってくるため、立たなければいけない水が出てきますが、この席の無い水は、空気中の水蒸気として存在出来ないため、結露として現れてくる水と言う意味です。
⑤ 夜になって冷たくなった壁や天井面と、暑い空気とがぶつかり④で説明したように結露が始まったとします。
結露を起こし、壁に水分を渡した空気は、20℃以下に下がっているので、周囲より重くなって下降していきます。
そうなると、近くの暑い空気が先程居た空気の位置に移動するので、しばらくこの結露状態が続く事になります。
また、結露状態に至らないまでも、カビの育成に有利な高温高湿度状態が続く事になります。
□ 実際のカビ対策
先程の具体例は、わかりやすいような温度や湿度を選んで単純化して作ってみたので、実際とは異なりますが、建物内上部がカビ易い理由は理解出来ると思います。
これらの説明は、条件さえ整えば一般住宅でもありえる事で、「屋根裏の物入れの荷物がカビでひどい・・。」とかの話も聞いた事がありますが同じ理由で説明が出来ます・・・。
しかし、一般住宅で、あまりこの手の事が話題にならないのは、前回の床下からの湿気供給の差に加え、住んでいる建物の二階が暑くなれば、少なくとも大きく窓を開け換気もしますし、外気も暑ければエアコンにより、冷房や除湿を行います。
また、都市部では、一日の寒暖差が少ない事も、被害が少ない原因だと思っています。
では新築別荘ではどうか言うと、別荘で使わない時期のエアコンや、毎日の窓開けなど、専用管理人でもいない限り不可能です。
なので、たまに「別荘は夏しか使わないので、断熱性能はどうでもいい・・・。」とか打合せで聞く事もありますが、しっかりとした断熱は
屋根側から一切焼け込んで来ないため、二階を快適に過ごせると言う意味でも重要ですが、別荘をカビから守り、建物の寿命や健康面からの意味でも、建物の断熱性能は重要となります。
尚、現在被害に遭っている別荘の場合、金額のかからない有効な対策は少ないのですが、もし屋根の葺き替え時期と重なっていたのであれば、屋根上に40~50mm位のスタイロフォーム等の板系断熱材を挟んだ、屋根部分の外断熱工事も併用すれば、断熱性も上がり、カビ対策でも、ある程度有効になると思います。
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