5   高気密高断熱編  home 執筆・編集 (有)土屋建築 土屋紀明  
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5. 充填断熱と外断熱

2003.11

 「外断熱」という言葉は、最近色々な所で聞かれるようになりました。
元々は、高断熱・高気密工法での断熱材の位置が、柱の間にあるか、柱の外なのか、の違いから始まった用語なのですが、
今では「高断熱・高気密」を知らなくて、「外断熱」と言う言葉を知っている人もいるようです。
原因は 『「いい家」がほしい』 という本がベストセラーになったのをきっかけにして、そこに外張り系の断熱工法を採用している会社が
いっせいに「外断熱、外断熱」と騒ぎたてたからだともいわれてます。
 以前、群馬SHS
(群馬県のSHS工法会員の団体、ダウ化工のSHS工法は外張りに属します)の親睦会でもダウの社員が、
「最近は、外断熱で家を作りたい人の問合せが、多いんですよ。」と、うれしそうに話をしてました。 でも、その問合せを
してきた人が、『「いい家」がほしい』を読んで電話をしてきたのなら、とても、喜ぶべきことではないと思っています。

 私は読書が好きで、いろいろな書店によくいきます。ほとんど小説や文庫関係
(新潮文庫のYondaグッツ集収のため)ですが、
建築関係の雑誌や本のコーナーにも一度は立ち寄ります。
大きな書店では、普通、仕事での建築専門雑誌や専門紙がある所を少し奥まって置き
「これからの家作りの参考に」という人向けの、住宅雑誌や本が置いてある所
を目立つような位置にもってきています。
それだけ、多くの人が住宅雑誌や本を買っているということです。
(家を建てる人は平均2〜3冊は住宅雑誌を持っているらしい)

 一般の人にとって住宅を建てるということは、お金がかかることですし、大変な決断がいることだと思います。
そこで、実際に作るとなれば、まずは近所の本屋で情報収集ということになるのでしょう。
そういうコーナーは、雑誌以外にも、「プロが教えるちょっとした収納や間取りの知恵。」というような本に混じって、
「自宅の家作り奮戦気。」というようなかんじの、プロじゃない人たちの家作りの苦労やアドバイスが書いてある本があります。
本人の家に対する熱意や気持ち、試行錯誤が伝わって来て、面白いのですが、
理論や技術面でおかしい所も平気で「こうだ。」と書いてあるのが気になる所です。 しかし、ある意味しかたが無いと感じてます
それは、ほとんどの人が、一生住むだろう家を、少しの時間と、限られた人の話や情報をたよりに判断しなければ、
ならないからです。
(またその情報も、宣伝力のある所の、自分に都合のいい情報だったりする。)

 これらの本と一緒に『「いい家」がほしい』
(創英社(三省堂書店)刊)は並べられています。その本には、作者(工務店経営者)が、
あるフランチャイズ系外断熱工法
に感激して(別にどこの断熱住宅と比べても、特別に優れていることもないと思うが)
2×4工法や他の高断熱工法
、特にグラスウール系充填を欠陥工法かのように書いてあります。 しかも、一見、科学的風な内容で、・・・
見る人が見れば分かることなのですが、でも住宅雑誌を求めに来る人が、その内容を判断することは難しいのかもしれません。
 
■ その問題内容については、 『「外断熱」が危ない』(エクスナレッジ刊)という反論本があるので、それを読めば詳しくわかります。 
(エクスナレッシは、建築知識を発行している建築専門の出版社です)

本の影響以前に、断熱住宅の割合は、本州では、フランチャイズ系やハウスメーカーが中心になり、外断熱工法
(プラスチック系断熱材)が。
北海道や東北の一部、北欧やアメリカ、カナダでは、充填断熱(繊維系断熱材)が中心になっています。
(北海道では、グラスウール系がほとんどを占め外断熱でもオープン工法が多く、断熱パネル採用やハウスメーカーは、わずか。)

つまり本州の住宅では、メジャーな外断熱工法中心の考え方でも、断熱・気密の歴史が永い地区や、棟数の多い地区では

(世界的に見ても)
マイナーな工法なのです。
それは、一部のハウスメーカー等の主張するように 「寒冷地の特殊な技術はそのまま取入れるわけにはいかず、
温暖な地域は、プラスチック系断熱材
や外断熱工法がふさわしい。」 と言う話では、基本的に間違っています。
本当の所は、

 本州の住宅で、外断熱工法(プラスチック系断熱材)が多く採用される理由として考えられる事。

@ 断熱理論を理解せずに安易に高気密という言葉で「隙間が無くなると逆に木が腐る。」と考える大工や施主が多く、
   安心させるため、
(説得すろのが面倒くさいから)吸水率の低いイメージのあるプラスチック系断熱材を使う。

A グラスウール断熱材の理論がわかり、施工できる職人が少ない。 (グラスウール断熱材の知識習得は断熱施工技術者講習会で
   行われたが、実際の施工でさえ正しく行われている例は少ない。高断熱・高気密化するのはもっと大変だろう。)

   特にハウスメーカーなど、棟数が多い場合は問題

B
 一般住宅と差別するのに都合がいいから。 
『「いい家」がほしい』で書いてある通り、本州で、一般の職人が行う、
   グラスウールの断熱工事
は、あの位である。プラ系外
断熱工法にすれば一目で違うとアピールできる。 又、大手の場合、
   取り扱い商品(住宅)のグレードを分かりやすくできる。


C もし、断熱理論や施工方法をよく知らない職人が施工する時でも、問題が少ない(施工管理が簡単)
  
(値段の高い断熱パネルが多く使われるのも、この原因だろう。 しかし、どの断熱工法でも、いい加減な仕事では
   気密は良くならない)


  
D 鉄を構造体にした住宅は外断熱しかできない( 森の4を参照してください。 )
  また、コンクリート打ち込み系の住宅の場合は、外断熱の方が、素材や構造上、確実に優れています。




 北海道の住宅で、繊維系充填断熱工法が多く採用される理由として考えられる事。 (上の番号と参照のこと)

@ 断熱内結露の問題対策で、繊維系断熱材施工の理論普及や技術指導が活発に行われたため、職人や請負会社が、
   よく理解して、工事をしている。そのため、値段の高いプラ系断熱材を積極的に使う理由は少ない。

A グラスウール断熱材の施工できる職人が普通

B 高断熱・高気密住宅が現在建てられている標準的な家である。(今年6月北海道に住宅視察に行き、札幌の住宅会社の
   営業の方の話を聞くことができました。その中で、「北海道では、高断熱・高気密だけでは、もう差別化できない」と、
   言っていました。 尚、その会社はデザインに力を入れているようでした。)

   実際に「外」とか「充填」とか言っても、施工が普通にされていれば一番差がつくのは、窓や床、壁、天井のK値や、
   その家のQ値です。本州では、次世代基準も緩いし施工できる職人が少ないため、フランチャイズにお金を払ってまで入会して
   差別化するやり方があるが、北海道では意味が無い場合が多い。 外断熱でもオープン工法が多いのはこのためだろう。


C Bの所でも書いてあるように断熱パネルを使う工法だとあまりコストダウンにならないため使う所も少ないようだ。元々
   寒冷地生まれのパネル
といっても本州が販売のターゲットという所もある。
   
(私もオープン流通しているパネルを使用するか考えた事があるが、楽はできるがコストダウンにはならないので、やめました。 
   値段的なことは、他社と流通や仕入れが違うので
書かないが、建築知識の増刊、断熱読本に、多少そこらへんの事
   があるので興味のある方はどうぞ。)
  
D 北海道でハウスメーカーはほとんど建っていないと聞いた。(特に鉄を構造体にした住宅)一般に造られる家のレベルが高い
   からだろう。
   
 まとめ

私の会社が外断熱を採用している理由は
@です。この工法を採用した頃は、エアーを廻す系の会社が巾をきかせていたことも
影響していると思いますが、「断熱材が入れてある壁の中を、空気を通す方が腐らない。」という間違った風に考えている人達も多く
(このページを読んでくれるような人は話を聞いてくれるのですが、聞く気も無いため)グラスウールで断熱・気密をすることは、
難しい状況でした。 現在は、高気密の意味も理解され始めてきたようです。
(まだまだ少ないが)
当社の場合、自分で施工しているので、どちらで施工してもいいのですが、更なる断熱性能UPが必要と感じているため、
グラスウール系充填断熱+付加断熱の工法を増やして行きたいと思っています。
( どちらの工法でも、壁体内結露の問題が起きなければ、木が腐る原因が無くなるため構造的には100年は優に持つことになります。
しかし、床板や、内装、外壁、屋根などに、予算が回らず、そこが15〜20年でだめになっては意味がないでしょう。
また、サッシや暖房設備こそ、予算考慮するべき所なのです。
私の所はオープン工法採用なので、あまり余計な金額はかかってないのですが、性能UPで、断熱材が厚くなれば、なるほど、
断熱材にかかるコスト格差が大きくなってきます。できればそこで浮いた所を、床板やサッシなどに使ってもらいたいと考えています。)




まあ「夢を壊すようで悪いなー・・・」と思いますが、一般の人にとって、断熱住宅で建てたいとなると、「どれが理想の工法だ?」と
考えがちです。たしかに宣伝では、各社とも理想の住宅を競い合っているよう見えますが、私から見ると、
「いかにビジネスとして成功するのか?」を考えて、工法宣伝やら、差別化のアピールやらをしてるよう感じてしまう所もあります。 

ただ、現在の状況を考えれば、一般の断熱配慮の無い住宅に比べれば、断熱・気密を考えてある住宅は、別物と思えるほどの
性能差を感じるでしょう。
(特に寒冷地では)
また、実際には、暖房計画や暖房機に合わせた間取り、通気を考えた窓の位置や日射取得の問題、などの部分の方が大事なので
「外だ」、「充填だ」などとは言わずに、その設計や施工する会社が、どれだけ理解しているかの方が重要な気がします。

(尚、次世代W地区対応ギリギリで高断熱・高気密住宅と言っている所もありますが、そのような住宅では普通に2×4住宅で
サッシに気を使った住宅の方が冷暖房費が安くなる場合が多いんじゃないかと思う場合もあります)





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